ハラスメントはなぜ起こるのか?~アンコンシャスバイアス~

先日も、自衛隊でのハラスメントの報道がありました。報道されているようなものばかりではなく、お友達や家族がハラスメントの被害にあっている、または自分自身がハラスメントの被害にあったことがある、など皆さんのすぐ身近にこのハラスメントはあるのではないでしょうか。

ハラスメントの被害者がこれだけたくさんいる、ということはハラスメントの加害者は少なくとも同じ数だけいる、ということです。組織だと、被害者1人に対して加害者が複数ということも少なくないので、実は被害者よりも加害者が多いということなのです。

「ハラスメント」という言葉が一般に浸透してからかなりの時間が経ち、「ハラスメントは良くないことだ」というのは誰にでもわかることだと思います。それなのになぜ無くならないのでしょうか。                 

  • 「いじめ」と「いじり」の違い
  • アンコンシャスバイアス
  • ハラスメントを防ぐためには
  • 「いじめ」と「いじり」の違い

    ハラスメントの加害者からよく聞かれるのは、これは単なる悪ふざけであって、深刻なハラスメントなんかじゃない、つまり「いじめ」ではなく「いじり」だという主張です。

    テレビでお笑いを見ていると、相手をけなして笑いを取るというシーンを見かけます。

    お互いが了解し、信頼関係があることが前提での「いじり」はコミュニケーションの一環で、時には場を和ませることもあるかもしれません。

    でもそうでないのであれば、それはたった1回でも、どんな小さなことでも相手が不快に思った時点で「いじめ」つまり「ハラスメント」なのです。

    加害者側にはこのように、「いじめ」と「いじり」を混同してしまう「認知の歪み」があることが多いのです。


    アンコンシャスバイアス

    この「認知のゆがみ」というのは、実は至る所にあります。

    例えば、「理系出身の人は論理的に考えるはずだ」「B型の人は自由奔放だ」など、私たちは誰でも無意識の偏見を持っています。これを「アンコンシャスバイアス」と言います。

    アンコンシャスバイアスにはいくつかの種類があります。

    1)ステレオタイプバイアス

    これまでの経験や文化的背景にもとづいて、他者を男だから、女だからというようなジェンダーやどこの国出身か、皮膚の色や職業などによる先入観や固定観念によって判断することです。

    例えば、「カウンセラーは優しいに違いない」「女性は男性よりも従順である」「黒人には犯罪者が多い」などと何の根拠もなく考えてしまうことです。このような偏見があると「そうであるはず」「そうであるべき」という態度で人と接し、自分の理想を押し付けてしまうことになります。

    2)正常性バイアス

    予期しない出来事が起こった時に、無意識のうちにそれを正常の範囲内であるととらえることで、心を平静に保とうとするメカニズムのことです。

    何か起こるたびに反応していると精神的に疲れてしまうので、人間にはそのようなストレスを回避するために自然と脳が働き、心の平安を守る作用が備わっています。ところが、この防御作用ともいえる「正常性バイアス」があまりにも働きすぎると、本当は深刻な非常事態なのにそう認知できずに命の危険にさらされることになってしまいます。

    これはハラスメントの被害者に多い心理ですが、逃げなくてはいけない状況なのに「こんなことはよくあること。大したことない」と我慢を重ねてしまい精神的な疾患を抱えてしまうことがあります。

    3)集団同調性バイアス

    ほかの人と同じことをすれば間違いないだろうという思い込み、周りにいる人に同調しようとするものです。日本人は他人配慮的な傾向があって同調圧力が強いので、この集団同調性バイアスが強い傾向があります。

    「赤信号、皆で渡れば怖くない」という心理です。

    ハラスメントのある組織では、ストレスをターゲットとされるある一人に押し付けるという現象が起こりやすくなります。こういう現象を「スケープゴーディング現象」といいます。

    ここで集団同調性バイアスが働き「皆があいつに冷たく接しているんだから、自分も少しぐらいハラスメントしたって問題ないだろう」という気持ちになりやすいのです。

    4)権威バイアス

    「権威のある人が言っていることは正しい」と思い込むことを言います。

    例えば、「医者が監修しているからこの記事は正しい」とか「あの芸能人がお勧めしているから良い商品に違いない」などというものです。自分自身では確かめもせずに、上司が言っていることを鵜呑みにしてしまう、などということが起こりやすいのです

    また、ある人を評価をするときに、「見た目」や「肩書」といった目立ちやすい特徴によって、評価内容が歪められてしまうことがあり、それがハラスメントにつながることがあります。

    「○○大学出身だから仕事ができるに違いない」「年収が高いから結婚相手にふさわしい」などという勝手な期待を抱き、その通りでないと不満を持つ、というものです。

    5)確証バイアス

    自分が正しいと思う考え方を肯定する情報ばかりを集めてそうでない情報を無視してしまうことを言います。つまり自分に都合の良い情報を集めて「だから私の言った通りでしょ?」と自分の正当性を確信しようとすることです。

    例えばネットで商品を買う時に、良いレビューばっかりを見て、悪いレビューを見なかったり見ても過小評価したり無視したりすることです。

    ハラスメントの場面では、相手の良いところは評価せず、悪いところばかりあら捜ししてしまう、ということが起こりえるのです。

    6)現状維持バイアス

    「知らないことや経験したことがないことを受け入れたくない」という心理的傾向のことです。これは、クライエントにもよく見られる心理です。変わりたい、でも変わりたくない、という気持ちになることがあるのです。

    人間は本質的に保守的なのです。現状を変えることは、確かに新たなチャンスが生まれて大きな利益につながる可能性があるのですが、同時に新たなリスクを生む可能性もあるわけです。未経験のことは「安定した状態がなくなる」ことでもあるので、失敗を恐れて現状にとどまりたいという人間の心理です。

    環境が悪いと認知していても、なかなか改善できないという場合には、この現状維持バイアスが働いているのかもしれません。

    7)バイアスの盲点

    アンコンシャスバイアスは多様で、上記以外にもさまざまなものがありますが、もう一つ重要なバイアスがあります。それはバイアスの盲点というものです。

    これは、誰もが世の中にあるさまざまなバイアスや偏見の影響を受けていることを理解しながらも、自分自身についてはその影響は他人よりも少ないと思っている、というものです。

    私たちは、自分の見えているものが真実である、と思いがちです。

    しかし、自分に見えている世界が真実かどうかは疑わしい、誰でもが歪んだ世界に多かれ少なかれ住んでいるのです。

    ハラスメントを防ぐためには

    アンコンシャス・バイアスについてみてきましたが、目的はアンコンシャスバイアスを無くすことではありません。誰でもが持っているものであり、完全になくすことは不可能です。

    では、どうしたらよいか、というと、「自分を疑う」ことが大切なのです。

    自分にはアンコンシャスバイアスがある、ということに気づき、それを前提にコミュニケーションをはかることがハラスメントを防ぐためには重要なのです。


    私たちは、誰でもが無意識のうちにハラスメントの加害者になってしまう可能性があるのです。

    大切なのは、「自分のものの見方が絶対、自分は間違っていない」ではなく「自分の見方には歪みがある」ということを前提に「私はこう思うけど、あなたはどうかな?」とお互いに思いやりあうことです。

    そして、自分との違いを互いに受け入れあうことです。



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カテゴリ:コラム